さぼってんだログ 常時ネタバレ

今のところ、和製RPGのシステムについて本気出して考えてみている。ネタバレに配慮していません。

文化の断絶1 こことあそこはあまりに遠い

『キル・ビル』て映画を見せられたことがありましてね。自分から見たんじゃないんですがまあ、見た。端的に言ってこれは「異国の人が作った「ぼくのかんがえた時代劇映画」」です。日本に長年住んで日本人やってたらこれは作れない、良くも悪くも。
 私みたいにポリシーがゆるい者は「へーこういうのもあるかねえ面白いねえ」としか思わないわけですが、時代劇に関しては一言あるぞって日本人の一部の方々には、これは耐えられない代物でしょう。「こんなもん時代劇じゃねえや」と言いたくなるはず。平日夕方『水戸黄門』の再放送を見るのを楽しみにしている層、これは現に実在します。それが「明日からこの時間帯は『キル・ビル』を放送します」なんてテロップでも出ようもんなら、テレビ局には抗議の電話が鳴り響くに違いないわけですよ。
 日本人が作る時代劇だって、実のところは考証なんぞいい加減なもんです。江戸幕府に副将軍なんて役職はないし、そもそも水戸光圀が日本全国を漫遊した事実がない。史実の水戸光圀の最大の功績は「水戸学*1」と呼ばれる皇国史観の構築であり、忙しくて漫遊なんぞしてる暇があるわけないです。
 問題は、史実かどうかとかじゃありません。標準的日本人の脳内に現に存在しているイメージが「水戸黄門」であって、そこから余りに乖離しすぎた描写で黄門様を描くと反発を招くに違いない、ということなんです。同様、んじゃこれは何なんだと言われれば「時代劇」としか言いようがなかったとしても、現に日本人の脳内にある「時代劇」からは乖離した映画であるところの『キル・ビル』は、ある種の日本人にとってはとても傲岸不遜なものに映る可能性があります。あんたの国には他にも娯楽が沢山あって、他のジャンルだって良かったはずなのに、何であえて時代劇にしたし、みたいな。
 さて、ひるがえってFF。今でも神話が伝わってるんですから、それらをご先祖様から受け継いできた古バビロニアの末裔の方々も今でもそれなりに存在してるんでしょうか。極東の島国の一般人には全くわからないわけですが、多分いらっしゃる。で、そういった方々が今FFをプレイしたとしてですね、「こんなのギルガメッシュじゃねえ」「何でギルガメッシュて名前にしたし」という抗議の電話がスクエニ本社に鳴り響かない保障はありません。
『水戸黄門』なんて日本ローカルでしか受けないんだから輸出に値しない、とかおっしゃる方、もしかするとそれ不遜じゃないですかね。ローカル極まりないものこそ、そのまま外に出せるんですよ。だって、本家本元の日本人が「これが黄門様」だって言ってるんだからさ。たとえば『ベルサイユのばら』なんか、フランス人にはお見せできないと思うんだけどねえ。もちろん私は『ベルばら』のマンガは古いのも新しいのも読んだしアニメも全部見て、すんばらしい作品だなあ、と思ってますが、それとこれとは話が別。
 輸出に際してはギルガメッシュは「BENKEI」とでも改名したほうがよろしいのかも知れないですね。日本人においては、標準脳内弁慶と標準脳内ギルガメッシュは別物だから、日本ではそのままでいいんですよ。

*1:このへんも面白い話がごろごろしてるんだけど書く余地がない。残念だなあ。